激しい打ち合いの末に悪魔の長剣が折れた。私の斬撃はそのまま心臓を薙ぐ。
「猪口才な。命をひとつ喪った」
「イクソバクノー様!」
「失せろ。うぬの出る幕なぞはない」
 黒い翼の天使が悪魔に駆け寄るが、一喝され、差し伸べた手は所在なげに宙を彷徨う。
「なにを棒立ちする。目障りと云うが読解できないか」
 天使を一瞥する。天使は虚を衝かれた顔でありながら見事なフォームで疾走し始めたのは、『走る』行為のみを操られているからだ。壁に衝突する、そう思ったときには天使の姿が消え、壁に穴が空いていた。これは、窓だ。ひょうひょうと外の冷たい風が吹き込む。落ちて無事で済む高さではないことは容易にわかる。
 悪魔はどこか遠い目をしているが、やがて小さく忍び笑いし、それは哄笑にまで増幅された。
「三者介入は心得違いの所存。ただただ数増せば、責拡散し総意なき郡体は無秩序の山を登る。アンジェリカ然り、お前達もまた然り。事象当事者なるは、侵略した我軍それと侵略されたか弱きか弱き小国。我が戦いに干渉することがそもそもの過ち。要らぬ厄介。横槍に正対する謂れなし。お前達がお前達でその罪を禊ぐがいい。
 我、イクソバクノーの術を解放ち、幾十許の脳を司らん。幾十許脳の名の由来、その真髄を脳にとくと刻め」



 むかしあるところに、守りの賢人とよばれるたいそう腕の立つ剣師がいた。
 守りの賢人はほかの剣師をなん人も斬ったが、やがて人を斬ることをやめた。
 ちょうど試合のさなかだったという。対戦相手に「マーガレットに負けよう」と誘い、ふたりで試合を降りた。
 ほかの剣師がかわいそうになったからではない。剣師を斬っても斬ってもいっこうに夢が叶わなかったからだった。だれよりも強くなればマーガレットとという女剣師に会えるといわれてきたが、そのきざしはあらわれなかった。
 そこで守りの賢人はモンスター退治をすることにした。わるいことをする怪物をたおす、ひとの役に立つ仕事だ。強くてひとりではたおせないモンスターはふたりでたおした。
 ぷるぷると揺れるジェリーをたおした。
 ほらあなに住むコボルドをたおした。
 いたずらをするレイスをたおした。
 そのうちに、守りの賢人は剣師ギルド長にちからを認められて魔王討伐をおねがいされた。守りの賢人はすぐに魔王のいる大陸にむかった。
 船で進んでいるところをクラーケンに襲われたが、ふたりでたおした。
 魔王によっていのちを与えられた砂漠のボールダーもたおした。
 魔王の城の番をしているドレイクもたおした。
 ふたりは魔王とたたかった。長い長いたたかいで、でももうすこしで勝てるというところだった。あともう一太刀。守りの賢人は、戦友もろともに魔王を斬った。



「視えるかこのビジョン。嘘偽りのなき真実。
 誘いに乗った剣師は黒髪のうら若き女剣師。ジェリーと戦ったのは痩せぎすの青年剣師。コボルドと戦ったのはナイフ捌きが売りの少年剣師。レイスと戦ったのは右腕を失った義手剣師。クラーケンと戦ったのは不幸が顔に張り付いたような青年剣師。ボールダーと戦ったのは豪腕の少女剣師。ドレイクと戦ったのは無口な僧兵上がりの剣師。
 守りの賢人と共に戦った剣師の総て、共闘したすぐ後に剣師ギルドより除名処分を施される。知らぬ筈はない。ギルド除名が何を意味するか。
 守りの賢人、その者こそお前の敵。剣を向ける相手を違えるな。──怯むな眼を啓け。お前の朋輩は、イクソバクノーの悪魔この世である」
 パートナの目が、私を冥く睨んだ。







 アンビデクストラス(累積あり)(発動時に消滅する)(被攻撃時に発動)
 攻撃の対象を自分から非行動剣師に変更する。非行動剣師が<反射>をもっているとき、攻撃の対象は行動剣師に変更される。







 対本気サタネルの剣師を送付してください。
 サタネルを倒した剣師が応募できます。
 パートナにする剣師をひとり指名してください。サタネルを倒した自分以外の剣師です。いっしょに戦うのは強化後のパートナとなります。
 指名にはパートナの剣師の魅力値分の報奨ポイントが必要です。残った報奨ポイントはプールされます。
 サタネルを倒しても報奨ポイントは増えません。パートナの剣師と協力してサタネルを倒しましょう。

 ボーナスN点を使用し、剣師を強化してください。Nはこれまでパートナの剣師を指名した回数です。剣の並びは自由に変更できます。

 期限までにメールを確認できないとき、その剣師は棄剣とし、負けと同等の扱いになります。
 棄剣となった剣師をパートナに選んでいた場合、パートナの剣師は強化前の能力値になります。


 宛先はclown_guignol@yahoo.co.jpです。
 【マーガレット専用キャラクターフォーマット】ふたり組に従って書いてください。英数字は半角です。
 イラストが添付されていれば差し替えます。形式はJPEG・JPG・GIF・PNG、大きさは幅300ピクセル高さ300ピクセルまでです。でも容量が大きすぎると縮小するかも。
 件名は【いっしょに本気サタネル倒そうよマーガレット】にしてください。恥ずかしい場合は、【本気サタネル、いざ戦わんマーガレット】でも可能です。
 イベントエントリまたは新規参加応募で使用したメールアドレスから送付してください。
 応募期限は2009/06/27(土)です。






 本気サタネルと戦う剣師




 エピローグ









 すべての剣師に捧げる。 私は常にマーガレットとともにあった。 戦いに挑むときも、剣を研ぐときも、食事を摂るときも、寝ているさなかも。 私の存在はマーガレットなしでは語れず、マーガレットを奪われたら、私にはなにも残らなかった。 喩えそれが私の脳が創り出した都合の良い理想で、実体のない幻であったとしてもマーガレットはそこにちゃんといたのだ。 私はマーガレットの友であり、弟子であり、僕であり、親であろうとした。 マーガレット自身が友であり、師であり、主であり、子だったかどうかはわからない。 マーガレットは私に微笑んだ。十分だ。誰よりも気高いマーガレットとともにあることを私は誇った。 マーガレットを崇め、拝し、仰ぎ、望み、慕い、頼み、尊び、重んじ、求め、志し、敬い、願い、見上げ、憧れ、想った。 誰よりも深く、なによりも広く、純粋にマーガレットを感じていた。 すべてはマーガレットのために。 マーガレットこそ私のすべて。 永遠だと思っていた。 それはなんの予兆もなく、まるでデウス・エクス・マキナのような強引さで起きた。 マーガレットにとっての未知が、私にとってはとんでもない怪物で、その何かは私の心を拭い去った。 それが最後だった。 真っ白になった私は綺麗だったろうが、しがらみのない人間など本当に人間だろうか。 なにも感じない、なにも想わない、なにも考えない。 死の伴奏が私を横切る。 形なき鋭き発想が私を押し潰す。 泡の飛沫は私を貫いて天へと昇る。 静かな音響が私を踏みしだいては摩滅し消える。 駆け出した孤影が束になって猫の舌のごとく私を削り取る。 無の中を彷徨い続けて、どれほど経ったのだろう。 時間すら効力を失ったこの場において、くたびれることはなかった。 ゴムと化した身体が無の揺らぎにたゆたう。 網膜に焼け付く痛みを感じて、それが光であると私の古い記憶が叫んだ。 輝点が大きく瞬く。 呑まれ、過去を失い、新生した世界が私を待ち受けていた。 茫洋とした感覚、ゆっくりと目蓋を開く。 輪郭の揺れる光は、しかしどこかで感じたことがある。 憶えている。 どこか冷え冷えとした瞳がこちらを向いている。 顔。 それは愛を囁く。 私の疑問にはなにひとつ応えず、矢継ぎ早に質問する。 その回答を脳に刻み込むたび、私は研ぎ澄まされてゆく。 ハイバネーション。 再起。 長き夢からの目覚め。 祈りの意味を思い出す。 赤は紫のために。 ゆるやかな流動、心臓の震え、見渡す。 なにをすべきか、理解している。 歩むために立ち上がる。 得物を持つのは戦うために、手を握るのは守るために。 ゆったりとしたローブのような白い衣を纏っていた。 簡素な履物をつっかける。 手を見る、握る、広げる。 私は戦うことができる。 腰に手を回して気付いた。 もう、マーガレットはいないのだと。